傘の中のひとり時間
雨の日は嫌いじゃない。
もちろん、
濡れるのは好きではないし、
靴が湿るのも困る。
それでも、
雨の日には雨の日の良さがある。
そのひとつが、
傘の中の時間だ。
傘を開くと、
世界が少し小さくなる。
頭の上では、
雨粒が一定のリズムで音を立てている。
外の音は少し遠くなる。
人の声も。
車の音も。
街のざわめきも。
まるで透明な部屋の中を歩いているような気分になる。
仕事帰りの夜。
駅を出ると雨が降っていた。
傘を開く。
その瞬間、
少しだけ安心した。
不思議なものだ。
たった一枚の布なのに、
守られている気がする。
雨の日は、
歩く速度も自然とゆっくりになる。
急げないからだ。
だから普段見落としている景色が見える。
コンビニの灯り。
濡れたアスファルト。
住宅街の窓から漏れる明かり。
どこかの家の夕飯の匂い。
傘の中にいると、
世界を少し遠くから眺めているような気持ちになる。
考え事もする。
今日のこと。
明日のこと。
昔のこと。
答えの出ないこと。
でも、
雨音を聞いていると、
その考え事も少しやわらかくなる。
結論なんて出なくてもいい。
今はただ歩いていればいい。
そんな気持ちになる。
家まであと少し。
雨はまだ降っている。
でも、
なぜか心は静かだった。
傘の中には、
誰にも邪魔されない小さな時間がある。
雨の日だけの、
静かな居場所なのかもしれない。